予言の自己成就とは、アメリカの社会学者マートンによると、最初の誤った状況の規定が新しい行動を呼び起こし、その行動が当初の誤った考えを真実なものとすることを指します。
この予言の自己成就は、ウィリアム・I・トーマスが提示したトーマスの公理の重要性を、マートンが定式化したものです。
今回は、この予言の自己成就ついて、具体例を挙げながらわかりやすく解説し、まとめています。
目次
1. 旧ナショナル銀行の例
2. 受験ノイローゼの例
3. まとめ
1. 旧ナショナル銀行の例
予言の自己成就 (self-fulfilling prophecy)という現象は、現実にはさまざまな場面で生じています。その有名な例として、アメリカの旧ナショナル銀行の倒産があります。
1932年当時、旧ナショナル銀行は特に大きな問題もなく、健全な経営を行っていました。しかし、ふとしたことから、支払い不能の噂が広まり、それを信じた預金者が殺到して預金を引き出しました。
その結果、銀行は本当に支払い不能になってしまい、倒産してしまったのです。このような銀行の取り付け騒ぎは、日本においても起こっています。
このように、倒産する、という主観的な思い込みが、実際には正しくなかったとしても、人々がそれに基づいて行動した結果、その状況が実現してしまうことを予言の自己成就と言います。
2. 受験ノイローゼの例
もう1つ身近な例を受験ノイローゼで挙げたいと思います。
受験に失敗する、と思い込んでしまうと、不安な受験生は勉強するよりも、くよくよして多くの時間を浪費し、いざ試験にのぞんで、結果として受験に失敗してしまうのです。
3. まとめ
これらの例が示していることは、世間の人々の状況規定(予言または予測)がその状況の構成部分となって、その後における状況の発展に影響を与えるということです。
これは、人間界特有のことで、人間の手の加わらない自然界では見られません。例えば、ハレー彗星の循環がどんなふうに予測されようと、その軌道には何の影響も及ぼさないでしょう。
しかし、旧ナショナル銀行が支払い不能になったという噂や受験に失敗するという予測は、実際の結果に影響を与えたのです。つまり、破産の予言、失敗の予言が成就されたと言えます。