科学的管理法とは、アメリカの技術者であり経営学者であるテイラーが提唱した、工場労働者の主観的な経験や技能の上に成り立っていた作業を、客観的・科学的に整理して管理することによって、労働の能率が著しく向上させ、雇い主には低い労務費負担を、労働者には高い賃金支払を同時に実現することができるとする考え方を指します。
この科学的管理法は、3つの原理(課業管理、作業の標準化、作業管理のために最適な組織形態)から構成されています。また、一方で問題点も指摘されています。
今回は、科学的管理法(別名:テイラー主義、テイラーリズム、テイラーシステム)の3つの原理と、問題点をわかりやすく簡単にまとめています。
目次
1. テイラー主義誕生の背景
2. 3つの原理
3. 大量生産方式への発展
4. 問題点や批判
1. テイラー主義誕生の背景
フレデリック・テイラー(Frederick Taylor)が科学的管理法を提唱した時代は、20世紀初頭、つまり1900年代始めの頃でした。
当時、アメリカの経営や労使関係は、いくつかの問題を抱えていました。経営者は、生産現場にあまり関わろうとせず、経験や習慣などに基づいたその場しのぎ的な成り行き経営が一般的であって、統一的で一貫した管理がなされていませんでした。
また、一方で生産現場では、熟練労働者に管理を任せる内部請負制度が、非効率な生産や組織的怠業が蔓延するなどの問題を引き起こしていました。例えば、1日の生産量を目分量で決めたり、カンや経験を優先したりしていたのです。
その状況で、労働者の仕事の成果が上がると経営者が賃率を一方的に引き下げたため、労働者は「仕事を効率的にするほど損になる」と考え、わざと怠けるようになります。雇用主はそんな労働態度に不信感を抱く状況でした。
そんな中で誕生したのが、テイラーの科学的管理法でした。
2. 3つの原理
科学的管理法の基盤となる、3つの原理(課業管理、作業の標準化、作業管理のために最適な組織形態)を解説していきます。
課業管理
課業とは「ノルマ」のことです。一日の仕事量の基準を設定するにあたり、模範となる労働者ならば達成可能であると見込まれる仕事量からはじき出すのが課業管理です。
この課業管理の中には5つの原理があります。
1課業の設定
1日のノルマとなる仕事量の設定です。
2諸条件と用具等の標準化
使用する工具や手順などの条件を統一することで、熟練工か未熟練工かにかかわらず、同条件で働かせるようにすることです。
このようにして「唯一最善の作業方法」を確立し、それを労働者全員に習得させ作業能率を向上させようとしました。
3成功報酬
4不成功減収
成功報酬や不成功減収は、出来高制賃金システムを改良したものであり、ノルマを達成した場合は単位あたりの賃金を割り増しして支払い、未達成の場合は単位あたりの賃金を割り引くことです。このようにして、労働意欲を高めました。
5最高難易度の課業
課業を優秀な工員の仕事量に基づいて決めるということです。
作業の標準化
作業の標準化は、「時間研究」と「動作研究」の2つからなります。
1時間研究
生産工程において、標準的作業時間を設定し、これに基づいて1日の課業を決定するための研究です。
生産工程における作業を「要素動作」と呼ばれる細かい動作に分解し、その各動作にかかる時間をストップウオッチを用いて計測して標準的作業時間を算出しました。
2動作研究
作業に使う工具や手順などの標準化のための研究です。
作熟練工の効率性の高い動きをもとに、最も最適な必要な道具や作業手順を明らかにしました。
作業管理のために最適な組織形態
上記にもあるように、今までは内部請負制に基づいて現場が生産計画を決定していました。生産計画を現場から分離し、計画立案と管理の専任部署を作りました。つまり「計画と実行の分離」を行いました。
また、そのための組織形態として、現代でいう「職能別組織」の原型を作ったとされています。
3. 大量生産方式への発展
このテイラーの科学的管理法をいち早く実践し、成功を収めたのが1903年に創業したのが、かの有名なフォードでした。
当時の自動車は一般市民には手の届かない高級品でしたが、フォードは科学的管理法を応用するとともに流れ作業を発案し、大量生産方式を確立しました。こうして科学的管理法はアメリカの機械産業の礎となり、現代に受け継がれていきました。
4. 問題点や批判
この科学的管理法は、現代の生産方式にも影響を与えるほど、革新的な考え方でしたが、これに対しての問題点や批判も存在します。
例えば、あまりにも効率性を重視するために、人間性を軽視している、人権侵害につながる、という批判があり、実際に1910年代にはアメリカで反対運動が起きました。
他には、「計画と執行の分離」によって、ホワイトカラーとブルーカラーの二極化が起こり、両極間で対立が深まる原因にもなりました。