フレキシキュリティという言葉は、日本ではまだなじみの少ない用語ですが、労働政策の1つとして、非常に注目を浴びています。
今回は、フレキシキュリティの成り立ちや、メリット・デメリット、デンマークの事例、そして日本では輸入可能かについてまとめています。
目次
1.フレキシキュリティとは
2.メリット/デメリット
3.デンマークの黄金の三角形
4.日本で適用することは可能か
1.フレキシキュリティとは
フレキシキュリティとは、フレキシビリティ(柔軟性)とセキュリティ(保障・安定性)を結合させた造語で、労働市場の柔軟性と、所得・雇用保障とは対立的でなく相互に促進的であるというのが基本的な考え方です。
簡単に言い換えると、フレキシキュリティの仕組みでは、企業が簡単に従業員を解雇できる一方で、失業者は最低限の生活を保障されるというシステムです。
このフレキシキュリティ政策には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。
2.メリット/デメリット
メリット1 柔軟な産業転換が可能
フレキシビリティにより、解雇規制が緩いので、時代の流れに合わせて、人材を雇ったり、解雇したりすることができます。
そのため、労働者を成長産業に移動させやすくなり、急激に変化する社会に対して、企業は柔軟に対応することが可能になります。
メリット2 労働者の安全保障が充実
解雇規制が緩和される一方で、解雇された労働者へのサポートは手厚くなっており、生活の保護や、再就職のサポートなど、非常に充実しています。
例えば、北欧の国々では、失業した際に、失業手当の給付額が前職の賃金の60%〜90%で、給付期間は約2年間あることが特徴です。
それに加えて、新しい職業が早く見つかるように失業者に対して改めて教育や職業訓練を行っているため、これまでとは異なる職種にも挑戦することができます。
デメリット1 非正規雇用の拡大の恐れ
欧州労働同盟は、フレキシキュリティ戦略の背後にある意図は、企業による解雇の自由の拡大と現職の雇用保障の解消であると考えており、非正規雇用拡大を強く警戒しています。
デメリット2 労働力不足
フレキシキュリティでは、従来から好況時に労働力不足に陥りやすいという問題点を抱えています。業種によっては常に労働者不足になっているにもかかわらず、2008年以降の世界的な不況によって失業手当給付が急増するという矛盾が生じたこともあります。
3.デンマークの黄金の三角形
フレキシキュリティが最も浸透している国は、デンマークであると言われており、実際にデンマークのモデルを真似るケースも多いです。
そのモデルは、黄金の三角形(ゴールデントライアングル)と呼ばれており、以下の3つの特徴があります。
・柔軟な労働市場と高い労働者の移動
・高水準の社会保障
・1年以上の失業者を対象とする積極的労働市場政策と全労働者を対象とする生涯学習
これら3つが上手く機能することにより、労働市場の低い失業率と高い就業率を維持することができます。
4.日本で適用することは可能か
このデンマークのフレキシキュリティ政策を日本に適用することは可能なのでしょうか。
日本の労働市場を考慮すると、適用することは難しいと考えられます。日本の雇用制度は、デンマークと対象的に、長期雇用慣行があり、職業訓練や失業保険などが充実していません。
さらに、日本での労働市場は内部労働市場と言われており(企業内での異動)、外部労働市場(企業間転職)をベースとするデンマークのモデルを採用するのは、難しいでしょう。