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アファーマティブアクションは逆差別でおかしいのか?歴史的裁判論争から問題点を考察

投稿日:2019-03-09 更新日:

アファーマティブアクションとは、人種・民族的マイノリティ、女性及びその他の歴史的に差別を受けてきた集団について、その機会を増進するために行うあらゆる積極的努力のことを指します。

今回は、アファーマティブアクション(以下、AAとも呼ぶ)について、アメリカ社会の論争と歴史的背景、その目的や賛成意見と批判意見をわかりやすく簡単に、まとめています。

目次

1. アメリカでの歴史的背景

2. AAの意味・目的

3. AAを巡る合憲・違憲論争

4. AAの賛成意見

5. AAの批判意見

6. まとめ




1. アメリカでの歴史的背景

まずは、アメリカでのアファーマティブアクションがどのような歴史的背景で誕生したのかを見ていきます。アメリカ社会では、奴隷制をはじめ実に多様な社会的・文化的差別を制度化・構造化してきました。

リンカーンによる1862年の奴隷解放宣言の後でさえも、実質的な人種差別は熾烈なものであり、人種的・民族的マイノリティ集団の人々は社会的・構造的な差別と暴力に晒され、その犠牲にされてきました。

そうした歴史的背景の下に、1960年代の公民権運動の流れの中で生まれたのが、過去の長い社会的・構造的差別を償い是正するためのアファーマティブ・アクションでした。

 

2. AAの意味・目的

アファーマティブアクション(affirmative action)は、ポジティブアクションとも呼ばれていて、日本語では、積極的格差是正措置と訳されます。

このアファーマティブアクションが設けられた目的には、過去の社会的・構造的差別によって何らかの不利益を被ってきた人々に対して積極的な配慮を行うことによって、実質的な機会均等を社会全体として達成することが挙げられます。

現代社会では、個人の能力や業績に応じて、地位・報酬や雇用機会・教育機会が配分されるべきだという風潮が、雇用現場や教育現場で広がっています。

一方で、教育機会や雇用機会をはじめとする「機会」は、過去の差別的な社会制度・構造に基づくために、全ての人に対して等しく開かれていない可能性が高いです。

その不平等構造を積極的に是正し、機会均等を実現・保証しようとする措置としての制度が、アファーマティブアクションなのです。




3. AAを巡る合憲・違憲論争

上記にも述べたように、人種差別撤廃を求めるアフリカ系の公民権運動の高まる中、ケネディ大統領が連邦政府の契約企業に命じた1961年の大統領令が、アファーマティブ・アクションの始まりでした。さらに、1964年成立の公民権法で法制化されたのでした。

少数派優遇措置の始まり

1972年の雇用機会均等法が、教育機会授与の重要性を強調したことなどから、大学の入学者選抜でも少数派優遇措置が本格的にスタートしています。

大学側はさまざまな形で少数派を優遇し、学生選抜に一定の少数派枠を設定したり、少数派の共通テストの結果に加点するなどの措置を取るなどしました。

しかし、「公正さ」をめぐって、導入から間もないころから様々な司法での戦いが続いてきました。いうまでもなく白人や男性にとっては不当な「逆差別」になりうるためで、「公正さ」という理念そのものの難しさが露呈しています。

アファーマティブ・アクションを提供するとしても、「どこまでが合憲でどこまでが違憲か」がその後の法廷での争点になっていきました。

マイノリティ枠は違憲

1978年のバッキー判決では、大学入学を断られた白人男性の起こした訴訟であり、訴えられたカリフォルニア大デービス校医学部の場合、定員100人中のうち、少数派と経済的困窮世帯出身枠が合計16人でした。

連邦最高裁は「アファーマティブ・アクションそのものは合憲だが、マイノリティ枠を数で定めるクォータは違憲」という判決を下しました。

マイノリティ枠を数で定めることができなくなったため、少数派の志願者に対し、大学入学選抜応募の時に志願書や成績などと同封する共通試験の結果について、各大学は一定程度の加点をする形でアファーマティブ・アクションを運用するようになりました。

しかし、その点数も大学によってまちまちであるほか、そもそも少数派であることを志願書での人種などの自己申告で判断するという制度そのもののあいまいさを指摘する声も強くなりました。

加点制も違憲

その加点制も2003年のミシガン大判決では違憲となります。ミシガン大学は少数派の志願者には自動的に150満点の20点を加点していましたが、これが禁じられました。しかし、一方で「アファーマティブ・アクションそのものは合憲」となっています。

2016年テキサス大判決では、優遇する際の基準を厳格化しましたが、アファーマティブ・アクションそのものの合憲性は認められ、現在に至っています。




4. AAの賛成意見

アファーマティブアクションの賛成意見は、設けられた目的の達成をすることが最も大きいことが挙げられます。

つまり、社会において、歴史的・構造的に不当に差別され不平等・不公平な評価・処遇・配分を押しつけられてきた社会諸集団・諸カテゴリーのすべての人々に対して、その不平等・不公平な制度・規範・慣行とそれに基づく差別的で不当な処遇を是正できることです。

一方で、アファーマティブアクションの批判意見はどのようなものがあるのでしょうか。

5. AAの批判意見

アファーマティブアクションに対する否定的な意見は、大きく3つ挙げられます。優遇されていない人たちへの逆差別になる、優遇された人々を恵まれない人たちだと決め付けている、優遇された人々は失敗する可能性が高い、の3つです。

逆差別

アファーマティブ・アクションは、特定の制度により、採用の機会を平等にしたとしても、白人など多数派が学歴や職を得るのを阻害しているとの批判も存在し、それは逆差別と言われています。

先述の通り、アメリカでは逆差別を巡って、何度も裁判が起こっており、その度にアファーマティブアクションの規定が変わっています。

恵まれない人種の決め付け

このアファーマティブアクションは、今まで差別を受けてきた人々にとって、利益になっているという見方がある一方、究極の人種差別だという見方もあります。

なぜなら、人種などによる属性で分類し、彼らに対して支援すること自体が、恵まれない人種であるとレッテルを貼ることに等しいと考えられるからです。

優遇された人々は失敗する

2015年のテキサス大オースティン校の入学選考の合憲性をめぐる連邦最高裁の口頭弁論で、保守派のアントニン・スカリア判事は「黒人学生が難関大のテキサス大に入って授業についていけなくなるより、良い成績が残せるような大学に進んだ方がよいのではないか」と発言しました。

この発言が意味することは、優遇されて入学したとしても、授業についていけなくなり、結果として失敗してしまう、ということです。

この発言に関しては、あまりにもアファーマティブアクションに対しての反対色が強いですが、実際に優遇されて入学した学生の中で、ドロップアウトしている学生もいるのも事実です。

 

6. まとめ

アファーマティブアクションは、平等とは何か、公正とは何かについて、多く考えさせられる制度です。また、歴史的背景も考慮されている点が、問題を複雑にし、難しくしている点です。

これらの問題の解決策として、完全な平等や公正の線引きはないものの、最適解に向かっての議論は終わることがないでしょう。


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