リスク社会とは、ドイツの社会学者ベックによると、近代産業社会は、豊かさを生み出すとされていたが、同時に地球環境問題などのリスクも生み出しており、そのリスクが全人類に対して分配され、生活環境や社会の発展に影響を与えるようになる社会を指します。
このリスク社会論という概念は、ドイツの社会学者ウルリッヒ・ベック(Ulrich Beck)が1986年に公刊した著作「危険社会」の中で初めて取り上げ、さらにその同じ年にチェルノブイリ原発事故が発生したこともあって、人々に強い衝撃を与え、広まりました。
今回はこのリスク社会論におけるリスクの特徴を、簡単にわかりやすく解説しながらまとめています。
目次
1. 過剰な産業生産が原因
2. 階級に関係なくリスクは全員に
3. リスクは見えず、時に隠蔽される
4. まとめ
1. 過剰な産業生産が原因
近代に入り、産業化が進んで、経済が著しく伸びていきました。経済発展は、人類にとって、豊かさや安定をもたらすと信じられてきました。しかし、実際のところ、この経済発展は私たちの社会に大きな悪影響も与えていたのです。
それが地球環境破壊などのリスクです。あまりにも経済成長を目指すために、目の前の利益を優先してしまい、環境負荷などには盲目になってしまっていたのです。
その結果として、地球温暖化や生態系の破壊、他には遺伝子操作や原子力発電や食料添加物、さらには治安の悪さや就労形態の不安定化など、さまざまなリスクをもたらしました。
2. 階級に関係なくリスクは全員に
このリスクというのは、生活におけるあらゆるものに潜む可能性があります。
例えば、大気汚染や食物連鎖、放射線などにより、生きていく上で必要な空気、食物、衣服、住まいなど、生活に入り込んできます。
そのため、富の分配の場合、不公平に偏りのある分配がされる傾向がありますが、リスクの分配は遅かれ早かれ、全ての人に対して分配されます。
つまり、このリスクに対しては、貧乏であっても、裕福であっても、安全でないのです。また、世界社会としてでしか、この問題への対処ができないとされています。
3. リスクは見えず、時に隠蔽される
さらにこのリスクの恐ろしい部分は、知覚できないということにあります。例えば、食品に含まれる有害物質や、原子力による放射線などは目に見えません。
そのため、この危険は知識の中にだけ現れるので、誇張されたり過小評価されたりすることがあります。また、そのリスクは社会が自由に定義づけすることができてしまいます。
このことから、リスクを定義する手段と定義づける権限をもつ地位は、社会的にも政治的にも重要になります。
また、このリスクが見えないことから、政府から都合よく市民には隠蔽され、そのリスクは見えないところでどんどん大きくなってきているかもしれません。
4. まとめ
生産力の拡大とともに近代化は進展してきましたが、その結果として環境が破壊され、チェルノブイリや東日本大震災のような破滅的な事故が発生してしまいました。
「科学や経済の発展=幸せな社会」というテーゼが破綻してしまっていることに否応なしに気づかされた人びとは、科学や経済に対する反省をせまると同時に、今までの行動をしてきた自己への反省をせまるようになりました。
そういった意味で、このリスク社会ろんは、財を得るためにリスクを無視して行動してきた人々に対して、大きな警鐘としての役割を果たしたのかもしれません。