「家賃滞納という貧困」は、シングルマザーでかつ司法書士の太田垣章子さんによって執筆され、2019年2月にポプラ社から出版された新書です。
目次
- 要約「家賃滞納という貧困」
- 感想・レビュー
- 著者について「太田垣章子」
要約「家賃滞納という貧困」
本書は、主に家賃滞納2200件の現場から、筆者が経験したり、考えたりしたことを中心に、18の家賃滞納の実例を紹介しています。
家賃滞納として紹介される事例は、大企業に勤めていた男性、子どもを抱えるシングルマザー、家族と疎遠になった高齢者、上京してきた学生など、幅広いです。
家賃滞納という1点に絞ったアプローチですが、そこからは日本が抱えるさまざまな社会問題を発見することができます。
また、その他にも、家賃保証会社が抱えるジレンマや闇、相続権などの明治時代に施行された日本の法律が家主を苦しめている現状なども取り上げられています。
感想・レビュー
貧困問題に関心を寄せている、ライターの私が実際にこの本を読んでみた感想です。
この本は、徹底した家賃滞納の現場から経験した事に基づいて、書かれているために、本を通してでも現場にいるような感覚でした。
特に、時には2ページにかけて、長々と書かれている貧困に陥っている家賃滞納者の声は、非常にリアルで、どうしようもなく家賃滞納してしまった人、家賃滞納した人の親族の声が、耳を塞ぎたくなるほど、悲しみに溢れていました。
家賃滞納する方は、悪質な故意による滞納する方もいますが、必死に働いていても、何か不規則な事が起きてしまい、払えなくなってしまう方も多くいます。
そのような方の声を聞くと、胸がギュッと締め付けられるようで、なんとかしてあげたいという気持ちが出てきますが、問題の根元が社会制度によるものが大きいので、どうしたらいいのかと、立ち尽くしてしまいます。
また、要約にもあるように、家賃滞納という切り口ですが、ここからさまざまな社会問題が見えてきます。
例えば、奨学金返済に苦しむ学生の問題、シングルマザーの貧困問題(2人に1人は相対的貧困)、社会との繋がりがなくなってしまった高齢者問題など、現在注目されている旬な問題ばかりです。
その中でも、多くの事例に共通している事は、貧困の再生産・階級格差の固定です。親が低学歴・貧困者であれば、子どもも低学歴・貧困者になってしまうという事です。
貧困問題は、さまざまな観点がありますが、家賃滞納という身近ですが、あまり気にしない観点からアプローチした著書は、読んでいて新鮮でした。
貧困問題に興味がある方以外でも、貧困問題に興味を持つ良いきっかけになり、また誰でも陥ってしまう家賃滞納という貧困の入り口について知ることができる有益な本だと思います。
著者について「太田垣章子」
著者である太田垣章子さんは、章司法書士事務所代表で、司法書士として活躍されている方です。彼女が異色と言われている理由は、過去から見えてきます。
太田さんは、30歳の時点で、専業主婦から子どもを抱えて離婚しました。シングルマザーとして6年間に渡り、貧困生活を経て、働きながら司法書士試験に合格されてました。
司法書士としては、登記以外に、家主側の訴訟代理人として、のべ2200件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在として知られています。
また、シングルマザーとしての貧困生活を経験しているので、訴訟の際に、賃借人に寄り添って解決することを心がけ、滞納者の人生をサポートするような対応をしています。