感情労働とは、アメリカの社会学者ホックシールドによると、「公的に観察可能な表情と身体的表現を作るために行う感情管理」と定義しています。
今回は、感情労働がどんな労働であるのか、具体的にはどのような職業なのか、感情労働が引き起こす危険性についてわかりやすく簡単にまとめています。
目次
- 感情労働はどんな労働?
- 感情労働が求められる職業の特徴
- 感情労働とバーンアウト
感情労働はどんな労働?
導入では、ホックシールドによる感情労働の定義を紹介しましたが、日本の社会学者は、それを解釈し、より理解しやすい定義をしています。
武井によると、「職務として、表情や声や態度で適正な感情を演出することを求められる仕事」と定義しています。
また、崎山の解釈によると、「日常生活において相互行為場面からの逸脱を避けるために、いわば感情管理を日々実践しているが、それが企業組織によって商品化に向けて一定の形式を強要されている点に、ホックシールドは『感情労働』という労働の特性をみる」と捉えています。
以上のことから、感情労働は、仕事のうえでコミュニケーションを介した時に出る多様な感情であり、自身の感情を抑制したり促進したりして対人との関係性の安定化を図ろうとする心理的活動であると理解できます。
感情労働が求められる職業の特徴
ホックシールドは、感情労働が求められる職業には、3つの特徴があると述べています。
1.対面あるいは声による顧客との接触が不可欠
2.他人の中に何らかの感情変化を起こさせなければならない
3.雇用者は、研究や管理体制を通じて労働者の感情活動をある程度支配する
これらの特徴を見てわかるように、現代においては、多くの様々な職業・職種が感情労働を必要とされています。
以前までは、旅客機の客室乗務員が典型とされていましたが、看護師などの医療職、介護士などの介護職、コールセンターのヘルプデスク、官公庁公務員なども含まれています。
職業の具体例 – 教師
教師は、個人的な苛立ちを抑制し、子どもの前では笑顔で振舞うことによって、精神的・肉体的に存在する教師 – 子どもの対立関係を隠蔽するための感情管理を行なっています。
また、子どもをしつけるという教育的行為に関しては、制度的な権力関係を顕在化させる感情管理を行なっています。
つまり、教師は自身の感情がその場において適切であるかを認識し、観察可能な表情や身体表現をつくるために自身の感情を管理し、教室の維持と管理をする仕事をこなしているのです。
感情労働とバーンアウト
ホックシールドは、「労働者があまりにも一心不乱に仕事に献身し、そのために燃え尽きてしまう危険性のあるケース」について取り上げていることから、感情労働とバーンアウト(燃え尽き症候群)の関連についても、示唆されています。
バーンアウトとは、それまで精力的に業務に取り組み、高い実績を上げているような人が、あるときから人が変わったように無力感に襲われ、それが行動や言動にもあらわれてくる症状です。仕事を含め、何ごとにも無関心で、著しい意欲の低下が見られます。
感情を抑制することを常に強いられると、無意識のうちにストレスを蓄積します。常に自分で感情をコントロールしなければならないという点で、すでに大きなエネルギーを使っています。限界に達すれば、コントロールをする力を失ったり、混乱したりし、バーンアウトに陥ってしまうのです。